病気や症状は脳からサインであり、チャンスでもある
先述の宮原さん(歯科医師)は、保険医という枠から抜け出し、自分の納得できる医療をめざしたいと、6年前に保険診療をやめました。
そして今、自分が目指す医療について次のように語っています。
「保険診療を行なわない場合、保険で決まっている治療法以外の治療を行なうことが出来ます。
ただし歯科治療法というのがあり、その中で認められている治療法の中から選ばなければなりませんし、治療費は実費になります。
これが保険を使わない、一般的な自費診療です。
でも、僕がやっているのはそんな自費診療ではありません。
私は『自費診療』と『自由診療』とは、明確に違うものだと考えています。
まず、
『なぜこの歯はむし歯になったのか? 』
『患者さんはこの虫歯をどうしたいのか』
というところからコミュニケーションをスタートさせます。
患者さんにはいろいろな人がいて、『歯の痛みを止めて欲しい』という人もいれば、『歯の痛みの原因を知りたい、原因が分かれば自分でやる』という人もいます。
ですから、初診時にあれこれ歯科処置を行なうことはしないのです。
だいたい1時間半くらいかけて、考えられる原因や治療方針などの話をし、一旦持ち帰って患者さんに考えてもらうようにしています。
現在の医療は、“病気は命を脅かす怖いものだ”と不安を煽って、医療に救いを求める人(患者さん)をたくさん作り出しています。
本当はそうではなく、病気や症状は脳からサインであり、考え方、物事のとらえ方、死生観、生きる目的などを考えるきっかけになるチャンスなのですから、不安ではなく自分の体に興味を持ち、自分に対する探求心を深めるきっかけにするものなのです。
伊東先生は“歯はセンサー”という言葉を使っておられます。
歯は体のどこよりも脳からのサインに気づきやすい部位なのです。
そんな歯を扱う歯科医師こそ、そこに気づくべきだと思います」
保険医を返上。経営は苦しい反面、やりがいはものすごく大きい
宮原さんがセミナーを受講したのは、奥さんの母親と姉を病気で亡くしたことがきっかけでした。
「その時の病院の対応が納得できないことばかりでした。
患者の不安や家族の思いにはお構いなしに、決められたことをただやっているだけ。
こんな医療では大事な家族が病気になった時に安心して任せられない。
もっと違うやり方が他にあるのではないか? と考えるようになりました。
そんな時に伊東先生の『その人研究―その人療法』セミナーを知ったのです。
歯科雑誌に掲載されていた『習ってきた技術を押し付けるのではなく、目の前のその人の脳の情報を読んで、原因探求し、どうしたらいいのか研究して行なう、その人のためのオンリーワンの治療』という文章を読み、これだ! と思いました。
そして、セミナーに参加し、伊東先生の講義を聞く中で、自分の行なっている歯科治療も病院の治療と同じようなことをしているということに気づきました。
『家族や自分が受けたい治療を行ないたい』
という自分の思いと現実に行なっていることのギャップで、毎日の診療が苦しくなってきました。
そして、限界だと感じた年、保険医を返上したのです。
保険をやめてから、すぐに医院経営は厳しくなりました。
でもどれだけ経済で追い込まれても、以前のような苦しさはありませんでした。
その後、少しづつ口コミで患者が増えてきました。
以前のような『近いから』という理由で来るような患者ではありません。
わざわざ僕のところに来てくださるのです。
自分を求めて来てくれる、その人に対して、役に立つために本人から情報を読み出し、一生懸命行なう。
これほどやりがいのあることはないと思います。
これも、相手の脳の情報を読む「読脳法」という技術があるからできることです。
読脳を学ぶことで私の人生は大きく変わりました。
ブラジルでの衝撃的な体験
2017年9月、私は生まれて初めて海外に旅立ちました。
行き先はブラジルです。
初めての海外が地球の裏側になるとは予想だにもしていませんでした。
福岡から成田、そして成田からアメリカのダラス空港で乗り換え、ブラジルのサンパウロ空港まで、まる2日かかってたどり着きました。
そして車で向かった先はサンパウロ市内の大きな建物です。
そこには250人ほどの人が集まって、ものすごい熱気の中、会場のステージでエネルギッシュに講義している伊東先生がいました。
私はその日、ブラジルのセミナーに講師として渡航したのです。
講師といっても研修のようなもの、まだまだ勉強中の身ですが一緒に渡航した歯科医師や鍼灸師、柔整師の仲間とともに、ステージで語り、30人の実技指導を一人で受け持ちました。
ブラジルの受講者のほとんどは、医師や歯科医師、セラピストでした。
そんな人達が、私の指導を熱心に聞き、喜んでくれるのです。
休み時間も相談や質問攻めにあいました。
自分がこんなことを経験できるなんて、夢にも思っていませんでした。
一緒に行った仲間たちもきっと同じ思いだったと思います。
もし、伊東先生に出会わなかったら……
読脳を学ぼうとしなかったら……
どんな人生を送っていただろうかと考えます。
自分の気持を誤魔化し、ロボットのように何も考えず、何も感じず保険診療を続け、人生の喜びも知らずにただ歳を取り、終わってしまっていたのだろうと思います。
それが一般的な歯科医師の人生なのかもしれません。
でも、患者さんはそんな歯医者に診て欲しいと思うでしょうか?
そんな夫と一緒にいたいと妻は思うでしょうか?
そんな父親のようになりたいと子供は思うでしょうか?
「フリーマンプロジェクト」
現実は厳しいことも苦しいこともありますが、自分が主体的にやっていく中で起こることなのですから、それは喜びに変わる苦しみだと思います。
保険医を辞める前、あれほど苦しかったのは、相手に関係のないことを押し付けているということが、ストレスになっていたのだと思います。
経済的にはまだ発展途上ですが、今気持ちはとても自由です」
宮原さんは、2011年に「保険をやめようと思います」と宣言しました。
それをきっかけに25名の歯科医師が保険医をやめると宣言し、それをきっかけに、私は「フリーマンプロジェクト」を立ち上げました。
フリーマンという言葉は決して保険医療という縛りから自由になるという意味ではありません。
人は本来、野生の生き物です。
自由にそして逞しく生き抜く力を持っています。
一人ひとりが存在する意味・理由・必要をもって、主体的に自分らしく生きていくことができるのです。
そんな人を私はフリーマンと呼んでいました。
国の決めた医療システムの中で、自分を見失って生きていることに気づき、なんとかそこから抜け出したいという医療者への協力のために始めたプロジェクトです。